架空と現実を行き来するSNS時代のアート達

展示作家
セマーン・ペトラ / 下村悠天 / 宏美


アメリカでFacebookが誕生して20年が過ぎた。Twitter、Instagram、TikTok......あらゆるSNSに囲まれて育ったSNS時代の子供たちにとって、SNSはもはや単なるインフラではない。SNSの中に親しいコミュニティがあり、真実の姿があり、希望や絶望もあるもうひとつの現実世界だ。

一方でSNSには現実世界をも脅かす暴力的なエネルギーが渦巻いている。情報の氾濫は嘘と現実の境界を曖昧にし、真実を暴き立て、ディープフェイクを拡散していく。巨大な虚構の世界はもはやアンコントロールだ。

本展で紹介するのは、虚構と現実のはざまを見つめて表現活動を行うSNS世代の3名のアーティストたちだ。

宏美が描くのは、現実の風景にキャラクターや植物が浮遊する白昼夢のような絵画だ。イラストコミュニケーションサービスのpixivが始まった2010年頃から虚構の世界と現実の風景が融合する世界観で作品を発表してきた。人間の理想の姿を現すキャラクターたちは、体のない顔だけで描かれるいびつなもので、ときにその姿はドットで覆われ見えなくなってしまう不確かなものだ。

下村悠天はゲームやVRなど二次元や仮想空間とそこに介在するキャラクターへの関心を起点に、物質と非物質の関係性に着目し、イメージの肌触りを想起させる絵画を描いてきた。

下村特有のポップな表現と挑戦的な素材選びによって生み出される立体的な絵画は、仮想空間とリアルが曖昧になる現代特有の錯覚を読み解いている。

そしてもう一人、セマーン・ペトラはアニメーションやゲーム、現実の風景などを組み合わせて映像作品を制作するハンガリー生まれのアーティストだ。作品の中で自身をモデルにしたキャラクターを主人公としているように、キャラクターは現実と虚構をつなぐ自画像としての意味を持つ。そこに描かれるのはペトラ自身の体験であり、同時に多層化する “せかい” を横断しながら生きる現代人の姿そのものでもある。

彼らがつくりだすものは多国籍的で、ポップで、愛くるしく、毒々しい、現代の肖像であり、新しい時代の表現記号だ。

SNSというパラレルワールドが高度に、そして複雑に占有領域を拡げ続けている今だからこそ、その中から生まれる新しい価値観を見つめてみたい。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているように、SNSという虚構を見つめることは、私たちの残酷で退屈で素晴らしい現実世界を見つめることに等しいのだから。


沓名美和 Profile

多摩美術大学客員教授 / 清華大学 Ph.D / 魯迅美術学院現代芸術学部教授 / 清華大学日本研究センター訪問学者 / REBIRTH ASIA 創設者 .CEO 現代美術・東アジア美術専門家
清華大学日本研究所にて東アジア文化芸術の専門家として外交行事にも携わる。

2021年富士吉田市「織と気配」キュレーション。2022年上海のPowerlongMuseumでのキュレーション。2022年から日本の現代美術を紹介する日本テレビの番組『The Art House』で専門家としてレギュラー出演。

中国魯迅美術学院では、中国の美大としては初めて「ものを作らないことに引き込む」というテーマで環境とアートについて講義を行っている。