田中里姫と鵜飼康平の二人展 ー 素材と扱いと空間


会期概要

会期
2024年11月30日(土)〜2025年3月30日(日)

会場
ASTER Curator Museum
石川県金沢市問屋町1丁目99
OPEN 11:00-18:00 休館 / 月・火

入場料|500円(税込) / 学生無料(学生証提示)


展示作家
田中里姫(ガラス)/鵜飼康平(漆芸)


ガラスの田中里姫と漆芸の鵜飼康平の2人展である。2人は、三十代前半の若い作家であるが、早い時期から才能を開花させて、仕事をしてきた。すでにデビューから少し経ち、スタイルが落ち着き、作品に深みが増してきている。と同時に次の展開に向けての新たな試みも行っているようだ。そのタイミングでの2人展である。同じ時代を共有する2人が、同じ空間をシェアして,展示することには、一定の意味がある。

それは、観客に向けての作品紹介というだけでなく、作家の自己確認の場としても意味をもつのだ。作家は作品を観客に向けて見せると同時に自分に向けても見せている。ある距離を保ちながら、普段の制作時とは異なった時間の中で作品を振り返る。作家の自己研鑽の場に同伴できることは鑑賞者冥利に尽きる。

さて作品の特徴について述べてみたい。2人の特徴は素材に対する向き合い方である。あまり前提を持たないということだろう。それは「素直さ」と言ったもので言い表せそうな姿勢である。前もって前提された技法や美意識というものがないか、それとも、あまりそれを感じさせない素材との向き合い方が特徴である。実に素直に素材と関わっているように見える。するとどうなるかというと、例えばガラスであれば、田中のガラスへの理解と扱いが素直に反映した姿をダイレクトに作品が現す。それだけかと思うかもしれないが、そのシンプルな「素材―扱い」の関係の中での制作は案外難しい。もっと色々なもの(例えば学んだ技法や知識といったもの)が見え隠れしてしまうからだ。それは時に作者の意図を曇らせ、作者と制作の関係を弛緩させる。だからここでいう素材と制作の「簡潔さ」は重要なのである。そしてそこが2人の持ち味である。

田中は膨らんだガラスであり、鵜飼は塗られた漆である。そしてそれぞれの素材の扱いは「空間」に働きかける。空間の中で持ち味を表すのだ。作品は表現物として中にこもるのではなく、空間と結びつき、外へと広がっていく。空間で意味を持つのだ。

「素材と扱い」という言葉はそんな2人の仕事を見ていて思いついたタイトルである。ここではあえて「技法」という言い方を避けた。この言葉では、あまりに意図的すぎるのと、工程に複雑さを感じさせるからだ。素材の扱いのさりげなさにこそ、2人の作品の特徴があるからだ。そしてそれが2人の仕事を「空間的」に展開させる要因になっている。時にデザイン的に見えるほど、簡潔で、美しい2人の仕事は、空間へ働きかけ、場所を見出していく。素材と扱い、そしてそこから生まれる空間性こそが2人の特徴である。


秋元雄史 Profile

東京藝術大学名誉教授、金沢21 世紀美術館特任館長、国立台南芸術大学栄誉教授、美術評論家。
1955年東京生。東京藝術大学美術学部卒業。1991年から直島のアートプロジェクトに携わる。
2004年~2006年地中美術館館長。2007年~2016年金沢21世紀美術館館長。2015年~2021年東京藝術大学大学美術館館長・教授。2017年~2023 年練馬区立美術館館長。