
末松 由華利 展 -罪のない遊び-
会期
2025年4月12日(土)〜5/4(日)
会場
ASTER Curator Museum
石川県金沢市問屋町1丁目99
OPEN 11:00-18:00 休館 / 月曜日・火曜日
入場料|500円(税込) / 学生無料(学生証提示)
作家在廊日
4/12 13:00-17:00
4/13 12:00-16:00
5/3 13:00-17:00
5/4 12:00-16:00
末松 由華利 展 –罪のない遊び-
本展を構想するきっかけとなったのは、クリストの《包まれた箱》という作品を知ったときだった。この作品は、クリストとジャンヌ=クロードの大規模プロジェクト(《42,390立方フィートのパッケージ》、アメリカ ミネアポリス、1966年)の経費を賄うために制作された作品で、外見は普通の小包のように見える。そのため、購入者がうっかり作品そのものである「梱包」を解いてしまうことがあったそうだ。そしてその中から現れるのは「あなたはたった今、美術作品を壊してしまった」という言葉だった[*1]。
おそらくこれは作家の遊び心からくるジョークだろう。しかし、私はそのエピソードにちょっとした恐怖を感じた。「なんとなく」「楽しそうだから」「みんながやっているから」といった無邪気な気持ちで始めたことで、知らぬ間に何かに加担することとなり、それが取り返しのつかない結果を生む──そんな人間の無自覚な加害性が露呈した瞬間を、象徴的に表すエピソードだと感じたからだ。
本展では、絵画とともに鑑賞者が「ひっくり返す」「並べ替える」「覗き込む」などの行為を通して、変化を加えることのできる作品を展示する。鑑賞者が作品に対して起こす行動と、それによって引き起こされる作品の変化が、他者と関わりを持ちながら生きる私たちの日常を振り返る装置となることを願っている。
子どもの手遊びのような行為とモチーフを通して、子どもから大人まで、誰もが持ちうる自分自身の無自覚な加害性を認識し、現状を点検する機会となれば嬉しく思う。
[*1]2021年DIC川村記念美術館で開催された展覧会、《クリストとジャンヌ゠クロード―包む、覆う、積み上げる》の会場にて配布されたハンドアウトより。
末松由華利の個展スペースは、しばしば「画家」として認識されることの多い(その認識も、けっして間違いではないが)彼女のアーティストとしての多彩な側面を開示する展示となっている。この展示では、末松を特徴づける比較的大型の抽象的な絵画に加えて、やや小型の切り絵、鑑賞者が手にとって動かすことのできるオブジェクト・ピース、参加型のインスタレーションを披露している。
それぞれの切り絵には左右、あるいは上下で対称的な図像が描かれており、陰と陽が反転する様子が示されている。手にとって動かすことのできるオブジェクト・ピースは、アクリル板に水と砂が封入されたもの、それぞれの木片に文字の刻まれたパズルのようなもの、あるいは万華鏡のようなものと多様だ。アクリル板に水と砂が封入されたオブジェクト・ピースは、その砂を能登半島の海岸から採取したもので、金沢にあるASTERでの展示に際して制作されたサイト・スペシフィックな作品となっている。インスタレーションの作品は、以前、ASTERでの個展で末松が発表したものと地続きになっている。
《親切》と題されたこの新作インスタレーションは、会場に向かう階段のうえに大雑把に設えられたスロープのような木板である。それは人が渡るには細くて頼りなく、むしろ危険にさらすような造りとなっている。その作品はまるで他者に「親切」にしようとして、わたしたちがしばしば他者を危ない目に遭わせてしまう瞬間を表象しているようだ。この個展は、末松が最近関心をもっているという、わたしたちのだれもがもつ認識しにくい暴力性や加害性を一貫したテーマとして構成されている。その一貫したテーマに、この個展で彼女は絵画のみならず拡張された多彩な芸術的アプローチでせまっている。
山本浩貴
文化研究者
末松 由華利
2010年多摩美術大学美術学部絵画科油画専攻 卒業。
2017年「シェル美術2017」にて金沢21世紀美術館館長(当時)「島敦彦審査員賞」を受賞。2019年 東京オペラシティアートギャラリーにおいて、若手作家の紹介を行うシリーズ展「Project N」に選出され、同館で個展を開催。2020年、第33回ホルベイン・スカラシップ奨学生として佐藤美術館で開催された成果発表展に参加。2022年、フィンランドArteles Creative Centerで開催されたアーティスト・イン・レジデンスへ招致作家として参加した。2024年にはテキスタイルメーカーとのコラボレーション商品が発表されたり、百貨店の全国プロモーションで作品がキービジュアルに起用されたりと、活動と表現の幅を広げている。