上田尚宏 展

“But thy eternal summer shall not fade.”

されど汝のとこしなえの夏は消ゆることなからん

シェークスピアが「されど汝のとこしなえの夏は消ゆることなからん」But thy eternal summer shall not fade と書くとき、彼の語は英語の言語的コードにおいて字義通りの意味をもつ記号であるが、隠喩という修辞法の文彩は、言語記号「とこしなえの夏」を「いつも最高頂にある充実した、ものうい美しさ」のごときものを意味するために用いることを許す第二次的な文学的コードの一部である。そして、さらには、自然と自然の過程との隠喩に拠るこの種の誇張的な賛辞を適切な賞賛の形式とするという愛の詩の慣習がある。
J. カラー著、川本茂雄訳『ソシュール』岩波現代選書、1978年、153-154頁

本展「“But thy eternal summer shall not fade.”」は、アーティスト・上田尚宏の個展である。上田は、金沢美術工芸大学油画専攻で絵画を学び、東京藝術大学大学院先端芸術表現科を首席で修了している。同時期、Elephant Gallery(岡山県)では、もう1つの上田の個展「“Stat rosa pristina nomine, nomina nuda tenemus.”」が開催されている。本展は、「“Stat rosa pristina nomine, nomina nuda tenemus.”」展と奇妙な仕方で共鳴する。

“Stat rosa pristina nomine, nomina nuda tenemus.” は、ウンベルト・エーコの小説『薔薇の名前』(1980年)に登場する一節で、「かつての薔薇は名においてのみ残り、私たちが持つのは裸の名だけである」の意。先の一節は、「美の実体が失われた後、名前だけが残ること」を示唆するが、ここには記号学的な洞察が含まれている。

これまでのキャリアで、上田は絵画や彫刻の技術を発揮すると同時に、非常にコンセプチュアルな作風で知られる。その作品は、予測不可能な仕方で現実とイメージの乖離を明るみに出し、実像と虚像のあいだ二項対立を撹乱する。「“But thy eternal summer shall not fade.”」展は、「“Stat rosa pristina nomine, nomina nuda tenemus.”」展のコンセプトを私なりに解釈し、上田に「お題」を投げ返す形式で発展した。“Stat rosa pristina nomine, nomina nuda tenemus.” はシェークスピアの言葉で、「されど汝のとこしなえの夏は消ゆることなからん」と訳される。ジョナサン・カラーは、この一節を例に挙げて、ある領域で自明視される、文字通りの意味の裏側にある二次的な含意(隠喩)について説明している。

現代アートの世界も、こうした隠喩に溢れている。上田は、画家が何気なく使用している、同一のカラーネームで異なるメーカーの絵の具を用いてコンセプチュアルな絵画を描いた。こうした彼の芸術実践を、別の角度から記号論的に眺めることができるかもしれない。そこで本展は、文学領域における「とこしなえの夏」のような、現代アート領域における「当たり前」をコンセプチュアルな仕方で浮上させる作品群で構成される。

文化研究者 山本 浩貴


トークイベント開催 / 上田尚宏×山本浩貴×武田雄介

開催日時:6月27日 (土) 16時 ~ 17時30分

6月27日(土)16時から17時30分まで、無料で入場できるトークイベントが開催されます。このアーティストの上田尚宏さん、文化研究者の山本浩貴さん、そして大学教員でありアーティストでもある武田雄介さんが一堂に会し、多彩な視点から興味深いディスカッションを繰り広げます。アートと文化が交錯するこの機会は、参加者に新たな視点やインスピレーションを与えることでしょう。ぜひお気軽にご参加ください。


会期:2026年6月27日 (土)  ~ 8月20日 (日)

会場:ASTER Curator Museum / 石川県金沢市問屋町1丁目99

開館時間:11:00-18:00 

休館日:月曜日・火曜日

入場料:無料